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ストレス診断義務化~どうする中小企業
2014年3月 5日

 全事業者に従業員のストレス診断を義務付ける法改正案の今国会提出へ向けて厚労省が動き出しており、産業医や中小企業経営者から「短時間で診断するのに無理がある」「メンタル不調者だとわかった時にどう対応すればいいのか」と批判や戸惑いの声が上がっている。

 厚労省は1月23日、昨年(2013年)12月の労働政策審議会の建議を受けて、労働安全衛生法の改正法案要綱を同審議会に諮問して、改正案の内容を公表した。医師・保健師によるストレスチェック(診断)を義務付けるほか、検査結果を通知された労働者の申し出に応じて医師による面接指導を実施し、事業者は医師の意見を聞いたうえで、必要に応じて、作業の転換、労働時間短縮など就業上の適切な措置を講じなければいけないとする。面接の申し出をしたことによる不利益取り扱いは禁じられている。ストレスチェックは、一般定期健康診断の法定検査項目ではなく、別に実施することも可能とされている。また、一般定期健康診断と違って、結果の通知先が事業主ではなく、労働者本人である。これは、メンタルヘルスが個人情報に深くかかわるため、プライバシー保護に配慮したためだ。

kourousyou-siryou_s.jpg ストレスチェック義務付けの背景には、職場のメンタルヘルスの深刻化がある。労働基準監督署が立ち入り調査すると「心の健康づくり計画」を作成しているかどうか必ずと言っていいほど質問するのも、そのためだ。「心の健康づくり計画」は、同法の指針(「労働者の心の健康の保持増進のための指針」)で策定がうたわれている。政府は10年6月の「新成長戦略」で、20年までにメンタルヘルスに関する措置を受けられる職場の割合を100%にすると閣議決定している。しかし、従業員50人未満の中小企業では取り組みが遅れているのが現状だ。今回、ストレスチェックを義務化するのは、中小企業の意識改革をうながす狙いもある。

 法改正の具体的内容は、省令・ガイドラインなどを待たないと明らかではないが、ストレスチェックは、独立行政法人労働安全衛生総合研究所が標準的な項目として示す9項目がベースになるとみられている。9項目は、「ひどく疲れた」「だるい」「気が張りつめている」などとなっている。チェックを受けた者の約12%が「ストレスあり」として、医師の面接が必要になると判定されるというリストである。
 ストレスチェックの目的として、昨年12月の建議では、ストレスの状況を把握するものであり、精神疾患の発見を第一義的にするものではないとされているが、医師による面接指導を申し出れば、「メンタルヘルス不調者」と名乗り出るようなものになりかねない。
 福岡市内の産業医は、「短時間で精神疾患かどうかを診断するのは無理がある。結果として、『ストレスあり』となったとき、人事・処遇で労働者に不利益な取り扱いの禁止が実効性をもつのか疑問だ。メンタル不調者のあぶり出しと、自主退職や休職期間満了による労働契約終了に追い込まれかねない」と指摘する。

nay.jpg 今回の改正案は、11年に国会に提出され継続審議の末、12年11月の衆議院解散によって廃案となった法案とほぼ同じ内容だ。
 日本産業衛生学会は、前回法案審議中の2012年、要望書をまとめ、予防主体の取り組み、事業者責任の明確化、非正規労働者に対するセイフティネットの創設などを求めていた。「優先的に取り組むべきは、メンタルヘルス不調者の発症予防(第1次予防)である」として、「心の健康を保持増進するための職場環境づくりを強力に推進する法律」の整備が必要だというのである。
 要望にあたって、ストレスチェック義務化の問題点として同学会は、「こころの健康という機微な問題に、全労働者へ拒否できない法律で義務を課すことは不適切」、「(定期健康診断とは別に実施する問題点として)精神面の健康と身体面の健康を別々に取り扱うことは、医学的に不合理であり、実務上極めて困難」、「労働者の自己責任が前面に出て、安全衛生法上の事業者責任が曖昧となる」、「企業の自主管理姿勢が後退して、職場環境改善などの1次予防がおろそかになる恐れが強い」、「今回示されているストレスチェック手法は、科学的に十分に確立された方法とは言えない」と指摘していた。

 厚労省は、前回廃案になった法案の内容に、各企業の取り組みを勘案して制度化するとしているが、前回の産業衛生学会が指摘した問題点が解消されたといえるだけに全体像は示されていない。
 労働衛生管理で目が向きやすいのは、病気や障害の予防という「下流」にあたる健康管理だが、職場の環境や仕事のやり方に原因があるので、発生の抑制という「上流」が重要だと言われている。メンタルチェックも大事だが、肝心なのは、真の予防は1次予防、つまり、メンタル不調者の発生しない職場づくり、ということを認識することである。

【山本 弘之】
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