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末期がん克服者と緩和ケア医師、講演(後)
2014年6月13日

<大切なのは、アイデンティティを知ること>
来場者の質問に応えるムラキさんと畑地医師.JPG 畑地美妃医師は、今年北海道から福岡に赴任してきたばかり。現在は福岡市内にある病院の緩和ケアセンター長を務めている。東京女子医大を卒業し、同大学の消化器センター外科に入局し、消化器にできたがんに外科的処置を施しながら、医師としての腕を磨いていた。だが矛盾も感じていた。医局は全国でもトップクラスで、周囲にも名医が揃っていた。それなのに、がん摘出手術を受けて元気に退院した患者が、再びがんで入院するのを目の当たりにした。手術の次は化学療法と放射線治療を用いて、徹底的にがん細胞を撲滅させる。それでもがん細胞が反撃してくることに戸惑いを覚えながらも、日々の忙しさに追われていた。

 あるとき実弟が潰瘍性大腸炎に罹った。自己免疫性疾患のひとつで、自分の免疫細胞が自分の体、とくに大腸を攻撃し、破壊させていく難病だ。実弟の病状は劇症型で、大量投薬と腸の全摘出が行なわれたが、次はひざ関節がやられた。実弟からも自分が担当するがん患者からも問われた。「がんや不治の病とは何なのか」「どうして自分がそれに罹らなくてはならなかったのか」「先生、教えてくれ」と。このような「スピリチュアル・ペイン」と言われる死期を意識した患者たちの心の痛みに答えられない自分がいた。医師は対処療法しかできないのか、本当にそれでいいのか、一体医者とは何なのか。悩んでいるうちに、国立がんセンターで緩和ケアを学ぶ機会があった。緩和ケアは、「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題に関してきちんとした評価を行ない、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)を改善するためのアプローチ」(WHO(世界保健機構)の定義より)だ。これなら医師として取り組めると感じ、メスを置き、緩和ケアに取り組むことにした。

 ムラキさんのような「がんサバイバー」つまり、がんを克服した人たちには、「現代医療の枠の内ではなかなか出会えない」と畑地医師は言う。同じ治療、療法を受けているように思えるのに、生きる人と死に至る人がいるということにも衝撃を受けた。緩和ケアでも患者たちのスピリチュアル・ペインに向き合った。医師としての指導マニュアルを用いるだけでは納得できない。たくさんの人々に会い、文献を読み解きながら、最終的には自分がイメージできることの限界を超え、不可視な領域にあるアイデンティティを知り、自分を信じられるようになることが大切なのだと悟った。
畑地医師は講演内で自身の悟りについては短時間では説明できないと断りを述べた後、概略を説明した。そしてムライさんが断食療法によって完治できた理由のひとつには、療法に取り組む過程のどこかで、「末期がんが治るわけがない」という既成概念を超え、無意識の領域で自分を信じることができたことにあったのではないかと語った。

山口勝己代表.JPG 講演後、両氏は来場者からの質問に応え、相談に乗った。来場者からは、「ムライさんの話は具体的でわかりやすかった。これを機会に自分の食生活を改めてみたい」「畑地先生の話は、心の琴線に触れた。情報が多すぎていろいろと迷いがあったが、まずは自分を信じることが肝心なのだとわかった」などの感想が聞かれた。

 がん体験共有会代表の山口勝己氏は、満員の会場を埋める来場者に感謝の意を述べ、「自分も主治医の診療を受けつつ、自分で断食療法を行ない、胃がんの進行を抑えながら普通に暮らしている。さらにこれからは心の問題が非常に重要である、と実感している」とし、今後も講演会の内容を始め、体験者の情報を共有し合い、学びに繋げていくと語った。

(了)
【黒岩 理恵子】

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