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「心の風邪」って、クスリで治るの?(2)
2014年7月 2日

 数年たって新規事業の見通しも立ち、それなりに軌道に乗った。しかし、「このままこの仕事で一生を終えて悔いはないか?」と考え、答えはNOだったので思い切って転職することにした。この判断は今でも間違ってなかったと思う。
 それだけのエネルギーがあるのだからうつ病からは脱却していたと思うのだが、では病院通いが終わったのかというと違った。
 「薬を止めたら、またあの辛い状態に戻ってしまうのではないか?」その不安が心を占めていたのである。

dr_1.jpg 心療内科のクリニックを訪れてびっくりしたのは、「世の中にはこんなにもうつ病の人があふれているのか!」ということだった。
 待合室には人が溢れ、椅子が足りないほどだ。そして2~3時間待たされる。患者たちはほとんど無言。全般に伏し目がちで、無気力な雰囲気が漂う。目をつむっている人も多い。間接照明のライティングのなか、小さなボリュームでクラシックなど「癒やし系」の音楽が流れ、患者同士の会話もなく、ひたすら沈黙で診察を待つ。
 それだけ待たされて診察は3分。
 「症状はどうですか?」
 「まぁまぁです」
 「そうですか。じゃあいつもの薬を出しときましょう」
 これで終わり。
 顔なじみになった窓口の看護師さんに処方箋をもらい、同じビルの薬局で薬をもらう。1回の通院で6,000円から8,000円。これが延々と続いた。
 月1回程度とは言え、半日病院でつぶすのは流石に厳しくなってくる。他の病気と違って、心療内科に通っているというのはやはりタブー(と勝手に自分で思い込んでいたのかもしれないが)。職場には秘密にしていた。

 そのうち「予約」をするようになった。
 「予約」と言っても、要するに処方箋をもらいに行く時間を電話で連絡するのだ。「今日は何時頃行きます」と電話で連絡を入れ、その時間に病院に行き受付を済ませ、待合室で待っていると、診察室から先生が出てきて「どうですか?」「まあまあです」「ではいつもの薬を出しときます」で診察終わり。待合室だから周囲には他の患者もいる。プライバシーもへったくれもないが、背に腹は代えられない。
 少し待って処方箋をもらい終了。かれこれ昼休みの30分程度で終わる。
 自動販売機があればそれで済みそうな話だが、医事法、薬事法の関係でそれはできない。健康雑誌などを読むと「調子が良いと自分で勝手に判断して薬を止めると、もっとひどいことになります」という趣旨のことが書かれている。

 最初の頃のようには薬効は感じなくなっていたし、そもそも薬が必要だったのかも怪しいのだが、身体が、脳が、というよりは、心理的に完全に医者と薬に依存している状態だから、自分から「薬を止めます」とは言い出せない。そしてそんな患者は自分だけでなく、周りにいっぱいいるのだ。

 この頃「うつ病はこころの風邪です」という広告を良く目にするようになった。「風邪を引いたとき病院に行くように、心の変調を感じたら気軽に心療内科を訪れましょう」「うつは薬で治せます。軽いうちの治療が大切」という具合だ。
 心療内科医の数も増えてきたが、この広告キャンペーンが功を奏したのか(?)病院の患者は増える一方。当初2人で回していた医院も、先生の数を増やして対応するようになっていたが、それでも相変わらずの待ち時間だ。

 「医者を変えなかったのか?」と疑問をお持ちの方もいるだろう。私もだんだん疑念が芽生え、他の医者に行ったことがある。新しく開業したクリニックで比較的空いていた。これまでの通院経験を語ると「それはひどいですね」と薬を出してくれた。飲むと胃がむかむかして、頭がぼんやりした。
 速効性を出そうとして多少強い薬を処方したのだろうか?なんだか行く気がうせて、もとの病院に戻った。

 要するに「本気で病気を治そう」というよりは、皮肉なことに通院自体が「精神安定剤」になっていたのだ。「楽な方、安易な方」を選ぶ心。そして、そうした生き方を苦難は好んで追いかけてくる。

【坂本 晴一郎】

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