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製薬会社頼みの臨床試験(前)
2014年7月10日

 製薬会社に対する信用が大きく揺らいでいる。2013年のノバルディス ファーマ社に続き、14年、武田薬品の高血圧症薬「プロプレス」の問題も世間の注目を集めている。国立病院機構の院長として臨床試験の仕組みに精通する九州がんセンターの岡村健院長は、日本の医師主導型臨床試験は製薬会社へ経済的援助を依存する仕組みに拘束されていると指摘。これを解決しないことには、また同様の事件を繰り返すであろうと警告している。

【寄稿】製薬企業の不正問題を考える(1)

独立行政法人国立病院機構
九州がんセンター 院長 岡村 健 氏

 日本における臨床試験問題の根は深い。問題を起こした会社や社員を制裁するのは当然であるが、それだけでは根本的解決にならない。このままでは同様の事件は必ず起きる。それは、現在の『医師主導型臨床試験(※)』の仕組みが問題だからである。

sikenkan.jpg そもそも臨床試験を行うには、プロトコールの作成、参加施設との検討・協議、倫理委員会とのやり取りなどの準備段階に始まり、実行段階では同意文書の説明、計画どおりの検査予約とその確認、データの収集と登録、中央でのデータ集計、確認、統計解析など、膨大な業務量を行わなければならない。日常の診療業務と併行して、質の高い臨床試験を行うには担当医師を支援する強固な体制、すなわちCRC(Clinical Research Cordinator)と呼ばれる臨床試験専門の看護師、薬剤師、検査技師、統計専門家、事務職などの職員で構成される臨床試験推進支援組織が必要である。しかし、現在の病院収益だけで、このような組織を設置・管理・運営・維持するだけの経済的および人的余裕はなく、国からの援助も全くない。したがって、この役割を担ってくれる製薬企業の支援がなければ、医師主導型臨床試験は成り立たないのが現状なのである。

 しかし、製薬企業社員がデータの収集、集計、統計解析に関与すれば、自社製品の売り上げを伸ばすため、データ改竄の誘惑に駆られる。医療者側は製薬企業からの支援を受けているとの負い目もあり、それをチェックする体制も甘くなる。近年、学術研究論文にCOI(Conflict of Interest:利益相反)について明記するよう求められているのは、世界的にも研究者とその支援者の利害関係が不正の温床となっているからである。

 それならば、医師主導型臨床試験を止めてしまえとの意見も出るであろう。しかし、医療は日進月歩。人類誕生以来、文明は進化する。医療の進歩も止めることはできない。すでに市販されている薬剤を複数組み合わせることで、新たな効果を期待できる治療法や別の疾患にも効能が期待されることもある。ただ、企業は一旦、市販された薬剤に対して、自社主導で新たな臨床試験を計画することには消極的である。だからといって、開発に投じた多額の資金の償還が始まったばかりの時に、新たな投資は避けたいと思う営利企業の経営姿勢を責めることもできない。一方、新しい治療法を確立し、病に苦しむ患者さんを治そうとするのは、医師としてごく自然の「ありのまま」の姿。登山家が何故山に登るのかと問われて、山がそこにあるから、と答えたのと同じ感覚である。だから、いわば自然発生的に医師主導型臨床試験が始まったのである。しかし、前述のように臨床試験を遂行する体制、組織の基盤が貧弱なため、製薬企業の支援に頼らざるを得ず、今日の事態を招くことになったわけである。したがって、この問題の根本解決には、医療者と製薬企業との経済的依存関係を断ち、医師主導型臨床試験を支援・推進する新たな公的仕組みが必要である。

※医師主導型臨床試験とは"すでに市販された薬剤"を用いて、医療者側が主体となって行う臨床試験のこと。これに対し、新しく開発された薬剤を"市販薬剤として認可を受けるために"人を対象として製薬企業が計画し、医療者側がその計画に従って実施する臨床試験を『治験』と呼ぶ。これは制度がしっかりしているので、今回の不正問題に関与した医師主導型臨床試験とは明確に区別すべきである。

(つづく)

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