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がん・難病が教えてくれた医療の限界(後)
2014年9月 2日

医療法人AGIH秋本病院
消化器外科・緩和ケアセンター長 畑地 美妃 医師


<羊のドリーと断食療法のプロセス>

 畑地医師は、医師でありながら現代医療では触れることがない精神的な、いや聖性にまで踏み込んだ領域で発言する。緩和ケア医として、スピリチュアル・ペインと向き合い、がんとはなぜ生じるのかという問題に触れる。「自然治癒とは、なにも特別なことではない。そこに大それた医療機器など必要としない、特別な化学薬品を必要としない。ただ、私たちが本来の在り方に戻るだけのこと。すべてをゼロ化して、完全な調和の中で結び直した時、自然治癒は自ずと起こる。未来医療は、病院のいらない医療である」(著書より抜粋)と、公言する医師は、そういない。

会場からの質問に笑顔で応える 畑地医師は、がんサバイバーの人たち、とくに断食療法で存命した人たちの症例については、次のように解釈している。
 1996年、イギリスで羊のドリーというクローン羊が生まれたのも、飢餓状態がきっかけだった。実験段階で培養した乳腺細胞への栄養を断って飢餓状態にしたところ、核の中のすべての遺伝子のスイッチが切られ、細胞が休止期に入って幹細胞にリセットされた。そして分裂や機能発現の遺伝子が、精子や未授精卵のように休止している状態が人工的につくられた。そこからドリーは生まれた。このように、人体は飢餓状態に強く、また全能を有する幹細胞にまでリセットされることがある。完治した人のがん細胞も、まだ分化の起こっていない幹細胞にまで戻ったのではないかと。
 
 だが、同じように断食療法を行なえば、すべての人が完治するわけではない。たとえ幹細胞に戻ったとしても、がんをつくったときと同じ生活習慣、同じ思考回路、同じアイデンティティで生きれば、同じことの繰り返しが始まるだけだ。一度ついてしまった疾病のかたちは、細胞のなかに形状記憶となって残る。それをすべてゼロにしてしまわないと、本来のかたちには戻れない。療法に取り組み、壮絶な痛みや排泄、発汗などの諸反応を発するのもゼロ化への過程であり、その痛みを感じながらも「私の身体は私が元に戻す」という意識を深い領域で確信をできた人たちが、末期がんの淵から戻ってきた人たちなのだろうと。多くの医師が、一度できたがん細胞は移転しても消滅はしない、と言う。たしかに幹細胞に戻すのは至難の業だ。ただ、その力は誰もが持っている。細胞で構成される人間という動物である限り、誰にも平等に与えられている力とだと、畑地医師は考える。

<死を恐れる患者に寄り添える医療>

 過去、多くの医師が畑地医師のように、その場を対処するに過ぎない治療の在り方に疑問を抱き、さまざまな療法を研究し、独自に場を設けて提供し続けてきた。畑地医師は、「深い潜在意識の変化によって、がんの自然治癒は可能だ。がん治療とは人生を見つめ直すことなのだ」という理論を、緩和ケア医として実践していこうとしている。
 緩和ケアは「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族」に対して行われる。そのため、緩和ケアというと「治療では助からないから追いやられる場所」と捉え、絶望を感じる患者もいる。だがあくまでも「疾患の早期より痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題に関してきちんとした評価を行い、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、QOLを改善するためのアプローチ」だ。この認識が広まれば、緩和ケアという言葉に死を想う患者も減るだろう。ただ、ここに挙げた内容をきちんと処置できる医師が増えることが条件だが―。患者の「生きよう」とする気持ちに寄り添いながら的確な診断を行い、時には「大丈夫」と肩を抱いてあげられる、そんな医療者が増えれば、今の医療現場も随分と変わっていくはずだ。

(了)
【黒岩 理恵子】

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